体験の中で、「できた」より先に起きていること
成果の裏側に隠れた、静かな「芽吹き」
野外活動の現場で、私たちはよく「火が起こせた!」「海を渡りきった!」という、目に見える成功体験に拍手を送ります。しかし、しまなみ野外学校が大切に見守っているのは、その「できた」という瞬間の少し前に起きている、本人にしかわからない心の揺れ動くプロセスです。
成果という「枝葉」が伸びる前には、必ず地中で「根」が動く瞬間があります。私たちはそれを、生きる力の根っこが育つ大切なサインだと捉えています。
「わからない」と向き合う時間の価値
例えば、火おこし。 マッチを擦っても、なかなか薪に火がつかない。煙だけが目に染みて、手は煤で真っ黒になる。「どうしてうまくいかないんだろう」と立ち止まり、じっと薪の組み方を見つめ直す。この、一見すると「何も進んでいないように見える停滞した時間」こそが、学びの宝庫です。
効率を求める現代社会では、こうした試行錯誤は「時間のロス」と切り捨てられてしまいがちです。しかし、自然の中では「正解」が一つではありません。風向き、湿気、薪の太さ。その時々の状況を自分の五感で観察し、仮説を立て、試してみる。
この「考える力」が駆動し始めた瞬間。それこそが、「できた」という結果よりも先に起きている、最も価値のある変化なのです。
遺伝子のスイッチが入る「違和感」
私たちはよく「遺伝子にスイッチを」という言葉を使います。これは、あらかじめ用意された正解をなぞるのではなく、想定外の事態や自然のままならなさに直面したとき、人が本来持っている「生き抜くための智慧」が動き出すことを指しています。
「なんだかうまくいかない」という違和感。 「もう少しこうしてみたらどうだろう」という好奇心。 「仲間と一緒にやってみよう」という協調への意志。
こうした内面的な動機づけ(スイッチ)が入ったとき、体験は単なる「思い出」から、その人の血肉となる「生きる力」へと変わります。
「根っこ」を信じて待つということ
大人ができることは、すぐに答えを教えたり、先回りして失敗を回避させたりすることではありません。しまなみの風土がそうであるように、ただそこにあり、彼らの試行錯誤を「待つ」ことです。
「できた」という達成感は、確かに素晴らしい自信になります。しかし、その手前にある、悩み、考え、自分の頭で一歩を踏み出したプロセスにこそ、その子がこれから先の長い人生を歩んでいくための「強い根っこ」が隠されています。